MESH ソニー株式会社
「遊び心」が改善の気づきを加速させる

「誰でも発明家」をコンセプトに、IoTブロックと簡単なプログラミングで、アイデアを簡単に形にできるソニーの「MESH」。学校教育の現場にも導入が進んでおり、デジタル時代の新しい改善の発想を生む感性が身に付くツールとして、JMACも研修プログラムに取り入れている。MESH開発者の萩原丈博氏、事業開発担当の沼田洋平氏にMESH開発時のエピソード、MESHによる職場の改善への期待などを聞いた。

――MESH開発のキッカケを教えてください。

萩原 キッカケは「目覚まし時計」です。洗面所に行かないと止まらないものがほしいというのが発想の原点です。ほしい機能をアイデアのまま自由に配置して使いたいなと考えて、最初はスピーカー、マイク、振動センサーなどのアイデアを「紙」(写真)でつくって、ヒアリングしました。たとえばインターホンの横にマイクの紙を置いて鳴るとスマホに連絡がくるなどのアイデアを人に話してみると「実はこんな困りごとがあって…」と、誰もが日常で課題を抱えていることがわかりました。課題解決のハードルが高くて実現しにくいことでも、ハードルを下げることで「できること」がもっと拡がるだろうとスタートしたのがこのプロジェクトです。

萩原 丈博 氏
Startup Acceleration部
Business Operation Team
MESH projectプロジェクトリーダー

デザイン思考で仮説検証を繰り返す

――まず「紙」にして説明したのは面白いですね。

萩原 MESHプロジェクトを始める前の1年間、会社の公募留学制度でスタンフォード大学に行き、そこで考え方がガラッと変わりました。

プロトタイプをいかにお金と時間をかけずにつくれるか。より早く本質的なものをつくって、仮説検証して早く先に進めたほうがいい、ということを学んだのです。いわゆるデザイン思考です。それと言葉での説明よりも「見せる」を徹底することです。言葉だけでは発信側と受け手側にズレが出るので、モノを見せて仮説検証することの大事さを学びました。

▲「紙」(写真左)でアイデアを表現して、プロトタイプ、製品になるまで。2012年の「目覚まし時計」の発想から3年後に製品化できた
――デザイン思考を具体的にどう適用しましたか。

萩原 ものづくりや課題解決に活かすために最初は課題抽出や共感から入って、それを問題定義してプロトタイプでテストして、ヒアリングでその人の課題を解決するには何が必要かを把握しました。次の仮説検証の段階では、たとえば何万円か払ってでも使う人はいるだろうか、となるわけです。

プロトタイプでワークショップが開けるようになってから、大学の先生方からその価格なら買いたいとの評価をいただきました。日常生活の課題解決からスタートしましたが、強烈なニーズがある分野として教育は一つのエリアになりそうだということがわかってきました。

――アイデアからプロトタイプまではスムーズでしたか。

萩原 実はかなり時間がかかりました。もともと私はソフトウェアのエンジニアで、ハードウェアは今回が初めて。ヒアリングで仮説検証していくプロセスを進める一方で、「つくる技術」の勉強にも苦労しました。そのころ(2012年ごろ)は、ものづくりスペースや3Dプリンターはまだそこまで一般的ではなく、試作をつくる環境自体があまり整っていなかったし、つくる技術に何が必要か、どうデザインするか、などもネットや周りで知っている人に聞きながらの推進でした。ちょうど「DMM.make」が3Dプリントサービスを提供するようになって、安く利用できたのは幸いでした。

そして完成したプロトタイプで子供たちのワークショップを開いて面白いことを発見しました。最初は紙にアイデアを書いて、その後でMESHを使うことにしたのですが、紙に書くところで止まってしまうのです。書ける子は全体の2割ぐらい。そこで2回目のワークショップでは、最初からMESHにしました。そうしたら子供たちがすごく生き生きして、周りのモノとMESHを組み合わせるのです。用意していた100円ショップのグッズと組み合わせるアイデアがどんどん膨らみ、子供たち同士のコミュニケーションも活発になりました。これが新しい学び方だろうなと思いました。

製品化では、開発期間や工数のバランスを見ながら最初のMESHを4つに絞り、クラウドファンディングも活用し、2015年7月に発売しました。応援してくださる方の意見を取り入れながら改善する必要もありましたので、資金目的というよりコミュニケーションの一種として活用した面が強いです。

「誰でも発明家」で拡がる発想の幅

――MESHを取り入れたJMACの研修はいかがでしたか。

沼田 MESHを取り入れたJMACのカートファクトリー研修に参加してまず気がついたのは、IoTで生産現場を改善できる幅は非常に大きいということ、MESHは生産現場の効率化についての「学び」を加速化させるツールになるということです。さまざまなものと組み合わせてプロトタイピングしていく、検証していくということですから、生産現場の改善促進にMESHが使えるという自信にもなりました。

「誰でも発明家」というMESHのコンセプトは家庭でも職場でも共通することですが、最初はB to Cとしてアプローチしていたため、今回B to Bでも解決の幅が広がる可能性を見出せたのは大きな収穫でした。

MESHを見ただけでは伝わりにくい場合は、研修のような形でのプランが前提にあって、MESHを使ってもらうのがいいですね。商品のソリューションからアプローチするのではなく、スキルセットを与えるという場です。IoT化による生産性向上を学べる場があったうえでMESHがあると、もっと伝わりやすいはずです。

沼田 洋平 氏
Startup Acceleration部
Business Operation Team

――子供たちのように「遊びながら」は大人では難しい?

萩原 たとえば、工場でもオフィスでも最初にMESHで遊ぶというか、職場内のさまざまなモノとの組み合わせを試して感覚的につかむのはいいことだと思います。MESHであれとこれをつなぐとこうなるね、という考えを1度体験すると、MESHでなくてもそういう発想が自然に出てきたり、日常業務の中で、ここにセンサーがあったらこれができるよねとか、気づきがパッと出てきたりします。MESHを体験する前に、危険物エリアの感知や在庫のカウントなどの例を出すと「他に似たようなシステムがあるよね」となって自分でやる感覚に結びつかない。最初に遊んで、「これで◯◯ができる」という体験をしていくことが大事だと思います。

「つくる・経験・共有」を定着させたい

――MESHの今後、将来像については。

萩原 MESHには2つ意味があります。1つはMake、Experience、Shareの頭文字、つくる・経験・共有です。共有できて、また次のものをつくるというサイクルを定着させたい。もう1つは「MESH:網」。人と人、モノと情報、アイデアが形になって網の目でつながっていくことで、課題解決のやり方も「創造的課題解決」が当たり前になる時代が来るとうれしいですね。

沼田 MESHが世の中に出て3年過ぎ、その網が具体化している状況です。たとえば学校教育とそこでMESHがどう使われていくか、網の目の交点としての教育現場があって、授業との接点にもなっていくという状況で、新しい価値が生まれてくることを期待しています。工場とMESHについても、同じです。新しいチャレンジと課題に絡み合うことによって新しい価値が出てきている状況で、MESHでその接点をどんどん増やして形にしていくのが私の目標です。

※本稿は2019年1月発行のBusiness Insights Vol.68からの転載です。

MESHを教材とした、IoT7つ道具®︎ 体感セミナー

JMACではソニーMESHとのコラボレーションにより、IoTの体感プログラムを開発いたしました。コースは、<IoT推進基本コース><デジタルカートファクトリー>の二種類です。これらのコースでは、IoTによる改善の感性を磨くこと」を目的としています。このコースではIoTによる改善を楽しみながら体感し、自職場の改善テーマを想定していきます。IoT7つ道具®︎の改善視点と教材MESHを使って、これから導入が想定されるさまざまなIoTツールを使いこなすための感性を磨きます。

 

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