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2018年6月10日
IoTによる価値拡大と成長戦略
IoT化を自社内にとどめておくと、イノベーションの範囲を自ら狭めてしまうおそれがある。
なぜなら、IoT化による革新対象を工場内だけでなく「顧客プロセス」まで拡大すれば、自社の強みを活かしつつさらなる成長への戦略を具体化することができるからだ。つまり、アンゾフの成長マトリックスでいう市場浸透にとどまらず、新市場開拓・新製品開発まで踏み込んだ、具体的な成長戦略を描くことが可能となる。
IoT推進による事業の拡大
「IoT化による革新対象を顧客プロセスまで拡大する」というのは、たとえばこうだ。
販売する自社製品をインターネットにつなげて、常時モニタリングできるようにしたとする。すると、ユーザーが自社の製品をどのように使用しているか一元的に把握できるようになり、集めたデータを通じて市場傾向の全体と顧客の個別情報の両者を同時に知ることができる。その結果、
- 適切な保守サービスの企画と提供・故障対応の迅速化
- 次回買い替え時の適切なフォローアップ
- 次期モデル開発への反映
- 新たな使い方からの新製品サービスの企画
などが可能となる。
販売した自社製品の使用データを顧客のために活用することができれば、顧客へのサービスがさらにレベルアップする。その結果ビジネスモデルも進化し、事業の付加価値をも高めることが可能となる。
新たな顧客サービスを創造する
新たな価値創造のための5つのアプローチ
事業拡大にむけたIoTによる価値拡大の方向性は、大きく2つの分類が考えられる。
- 既存ビジネスの中で、QCDの大幅なレベルアップを実現し、顧客満足を獲得するアプローチ
- 新たなビジネスモデルを構築し顧客へ新たな価値の提供で、ビジネスを拡大するアプローチ
これらを段階別に整理すると、新たな価値の創造には、以下、5つのアプローチが考えられる。
- マス・カスタマイゼーション型
- カスタマーオペレーションモニタリング型
- スマートプロダクト型
- バリューエクステンション型
- スマートマッチング型
Type1 マス・カスタマイゼーション型(Mass customization)
マス・カスタマイゼーションとは、個々の要求に対応した製品(カスタマイズ仕様)を量産と同じレベルのコストで製造することによって、個々の顧客満足度の向上を狙うものである。顧客の要求・ニーズにきめ細かく対応することで、ファンをつくり、顧客をロックインさせるアプローチである。
そのため、工場内では、顧客の要求を生産情報(計画、手配、製造条件など)とつなぎ、個体一つひとつに情報を付加して生産を実現するシステム構築が求められる。
Type2 カスタマーオペレーションモニタリング型(Customer operation monitoring)
カスタマーオペレーションモニタリングとは、顧客(カスタマー)が製品やサービスの運用状況・利用実態(オペレーション)を監視(モニタリング)することであり、その収集された情報をフィードバックすることで、より良い製品、サービスを最適なタイミングで提供するアプローチである。
たとえば、顧客の製品の使い方の把握にもとづく製品開発へのフィードバック、利用実績にもとづく故障予知による保全サービス計画へのフィードバック、需要予測の精度向上による販売計画へのフィードバックなどがある。
このカスタマーオペレーションモニタリング型を進めるにあたり、「どのデータを収集するか」を決めることが重要になる。既存プロセスにおける問題点を把握した上で、改善につながる因子を事前に特定し、そのデータ収集の仕掛けを設計することが必要となる。
Type3 スマートプロダクト型(Smart Product)
スマートプロダクト型とは、文字通り既存製品をスマートプロダクトにレベルアップさせ、製品としての魅力を顧客に感じてもらうアプローチである。このスマートプロダクトとは、製品自身が「自律化機能」を持つ製品を指しており、製品自身が顧客や使用状況に応じて自律的に判断できる機能や、製品そのものが自動的に成長やバージョンアップをする機能を持たせる。実際には、製品企画として「自律化機能」を顧客要求として捉え、開発していくことになる。
Type4 バリューエクステンション型(Value extension)
Type1~3については、既存ビジネスや業務に IoT を活用して改善することで顧客満足を得るアプローチであったが、このバリューエクステンション型のアプローチは、既存ビジネスの強化ではなく、新たなビジネスモデルを構築し、そのビジネスモデルによって顧客を掴み、売上拡大を狙っていくものである。
単に既存の製品やサービスの価値(バリュー)を顧客に提供するだけでなく、その製品やサービスを活用する「顧客のプロセス」に入りこみ、顧客が抱える悩み・困りごとの解決まで価値を拡大させるソリューションを提供するアプローチである。エクステンションの意味は、バリューを「顧客のプロセス全体まで拡げて提供する」ことである。
そのために、顧客のプロセスにおける問題点を把握し、スマートプロダクトの活用や ICT 技術で顧客プロセスの情報をつなぐバリューエクステンションシステムを設計することが必要になってくる。
Type5 スマートマッチング型(Smart Matching)
Type1~4については、主に製造業における価値創造のタイプであるが、5 つ目のパターンは、ものづくり企業に限らない。IoT を活用したマッチングの考え方で新たなビジネスモデルを創り出すアプローチである。
一般的には、顧客(需要側)とサプライヤー(供給側)の両者を IoTでつなぎ、カスタマーオペレーションモニタリングによって、リアルタイムに需要と供給のミスマッチを把握し、解消するサービスを提供するアプローチである。
IoT/ICTを活用した価値拡大の5つのアプローチ
この価値拡大のための5つのアプローチタイプは、ものづくりの特性に応じて探求していくことが望まれる。またType1~4については、取り組む順序と考えてもいいだろう。
コンサルタント紹介
石田 秀夫
取締役 生産コンサルティング事業本部長/シニア・コンサルタント
大手自動車メーカーに入社し、エンジニアとして実務を経験した後、JMAC入社。生産部門および開発設計部門のシームレスな収益改善・体質改善活動を支援。事業/生産/技術/知財戦略を組み合せた次世代ものづくり/スマートファクトリー化を推進。
【主なコンサルティング領域】
・開発生産戦略立案、ものづくり領域全般
・国内外の新工場工場立ち上げ設備投資計画
・スマートファクトリー構想立案策定支援
・IoT/ICT/A活用したI新しいビジネスモデル開発
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