2019年1月27日

IoT7つ道具事例

デバイスウォッチャー 島田電子工業株式会社
たった30分で設備の稼動状況を見える化

シグナルタワーにセンサーモジュールをかぶせるだけで、設備の稼動状況を簡単に把握できる「デバイスウォッチャー」。この画期的な製品を開発したのは大分県中津市にある島田電子工業だ。データ収集から管理・分析もローコストで実現できることから、JMACのIoT 7つ道具®︎の1つにラインナップされている。代表取締役の島田眞一氏に松本賢治(JMAC)が聞いた。

大手の撤退で新しい事業を模索

松本 光センサーやLED関連が専門ですよね。

島田 はい。光センサーの開発から組立・評価、半導体試験装置や電装回路の設計・製作をメインにしています。1976年(昭和51年)に設立して以来、大手メーカーとの取引が拡大していく中、LED関連製品の一貫生産、光センサー素子の生産など事業を広げてきました。一番多いときで生産量が世界ナンバーワンになるほどの大手でしたから、2011年にその大手が事業撤退を決めたときは、経営的に非常に危うい状況に陥りました。大手の撤退で供給が途絶えてしまうメーカーさんにウチから製品を供給できるようになるまで、材料調達のルート確保などで2年半ほどかかりました。同時に、新しい事業の可能性を探らなければならない時期でもありました。

松本 デバイスウォッチャー(以下、DW)が生まれるキッカケですね。

島田 実は大手との取引で仕事が忙しいときに、設備のチョコ停(小停止)で困っていたので、稼動率を集計することにしましたが、これがなかなか難しい。作業日報に記録するにしても正確性に欠けるので、それならばシグナルタワーの点滅から信号を拾えばいいじゃないかと。

松本 その段階ではIoTでもM to M(Machine to Machine)でもない…。

島田 まだですね。買ってきた通信モジュールをテープで貼ってWi-Fi信号を飛ばしていた段階です。その当時は非常に忙しかったので、稼動状況を把握して稼動率がわかるようになれば、生産計画や作業の合理化、残業削減などに使えるなというのが発想の原点です。

設備稼動率を把握し工場を見える化

松本 シグナルタワーの点滅に注目したのは?

島田 初めは設備から信号を採取しようとして、設備の図面を確認しました。PLCから採るにしてもかなり専門知識が必要で、勝手にいじると設備本体が動かなくなるリスクもありました。そこでシグナルタワーに配線があるから、そこから採ればということになり、さらに点滅するから、光センサーで拾った方が早いということになりました。自社技術がそのまま使えたわけです。最初は絶対止められないラインの設備を対象にして、最終的にはすべての設備のシグナルタワーにつけて、稼動状況を監視して、工場を見える化しました。

松本 外販への動きはどの段階で本格化しましたか。

島田 当時まだ外販予定はなかったのですが、IoTという言葉の出現とともに関連技術の価格が下がってきたこと、また他社から販売要望があったことから、新規事業として外販を決意しました。高かった通信モジュールも価格が下がってきて、さまざまなメーカーから取り寄せて評価しました。だいたい1年半くらいの開発期間でしたが、この通信モジュールの評価に時間をかけました。

課題の顕在化、改善、検証ができる

松本 DWは信号の変化だけを捉える仕様ですよね。

島田 はい。通常はポーリング(他のシステムと干渉をさけるために一定時間ごとに状況を確認)で、たとえば10秒で1回の監視とすると、たまたまそのとき稼動している/停止しているはわかりますが、稼動率がいい設備は、いつ監視しても稼動データばかり蓄積されてしまうので、あまり意味がないのです。DWにマイコンをつけて、変化が起きたときだけ信号を送るようにしました。データ量もコンパクトになって、扱いやすくなったというメリットもあります。

松本 生産計画の立て方もスマートにできますね。

島田 そうですね。DWで見える化することで、実態に合った計画を組みやすくなります。低い稼動率なら低いという事実をもとに計画を組まないとムリが出ます。しかし高い稼動率が必要となれば、そのギャップを埋めるために、どこが止まっているのかを特定して改善していく。改善して数値がどう変化したかをモニタリングして、効果のある対策を見極めることもできます。まずは稼動率を数値化・見える化することで課題を顕在化します。次にゴールを設定して改善を実施して、検証していきます。このサイクルを回して理想の稼動率に近づけていくことができます。

松本 先の話かもしれませんが、稼動率を生産計画のマスターに自動反映するシステムの開発につなげたいですね。マスターの設定や更新などは、けっこうタイヘンです。場合によってはAIなども取り入れて実績ベースで過去の正確なデータを反映できれば、日本の生産管理が変わるくらいインパクトのある仕組みができるのかなと個人的には考えています。その入り口にあるDWのようなツールがどんどん出てほしいですね。

島田 生産管理システムとのリンクは、大学の方も興味を示しているので、今後話し合っていくつもりです。

企業の変革と成長に貢献していきたい

松本 自社の改善ストーリーがDWとして世に出ることで、社内的にもいい影響があったと思いますが。

島田
 自分たちの知恵が商品となって売られるということで、やはり誇りも感じています。今まで以上にしっかり現場を見ていかなければ、という思いも強くなりました。デバイスの取付け方法を検討しているときに、現場の社員からの「かぶせればいい」というアイデアが大正解だったことも、うれしい刺激となりました。中津市発の自社ブランド製品に皆が愛着を持っています。

松本 今後のIoT事業の展望をどう見ていますか。

島田
 弊社は製造業のため、製造現場で本当に必要とされるものがよくわかります。今後はセンサーや信号取得方法の追加などで、製造現場のアップデートに必要とされる考え方や機能をDWプラットフォームに実装していく予定です。就労人口減対策や生産性向上など、企業に変革が求められる中、なかなか取り組めない企業も少なくないと思います。私たちの取組み方や製品で、少しでも変革と成長に貢献できれば幸いです。

松本
 DWの可能性はまたの機会にぜひ詳しく聞きたいですね。ありがとうございました。

工場を見える化するIoT 7つ道具®️です

島田電子工業さんは、自社のセンサー技術をIoTという視点から捉え直して、新しい事業にチャレンジしています。稼動率を簡単に集計・分析できる仕組みには、現場の知恵と見える化のノウハウがしっかりと生かされており、JMACのIoT 7つ道具®️の1つ(IoA:Internet of Availability)に取り上げさせていただきました。現場に強いJMACとしても、導入前の診断や導入後の活用の面で協力していきたいです。

松本 賢治
JMAC 執行役員 デジタルイノベーション事業本部長 シニア・コンサルタント

※本稿は2019年1月発行のBusiness Insights Vol.68からの転載です。

参考ページ

コンサルタント紹介

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